春うらら万葉の世界へ
[2011年10月6日]
ID:1826
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万葉集を基に古典文学の世界へ誘い、知的好奇心を満たして、古典文学への関心を深めていただこうと開催しました。
奈良大学文学部教授の上野誠先生をお招きし、万葉集の中から「春の歌」、「奈良にちなんだ歌」を中心に、歌の解説とその背景を楽しく分かりやすいように講義していただきました。万葉集へ親しみをもって学習していただく機会となりました。
上野先生は、万葉集を民俗学的見地から研究されているとのことで、万葉集の歌の内容とその時代の人々の習慣や風俗の中から春にまつわるものを例に講義をされました。
前半では、万葉集の最初に収められている、「春の岡で菜摘をしている乙女たちに天皇が声をかける歌」を紹介されました。この歌から、『声をかける(名前を聞く)』ということが当時は求婚を意味していたことや、女性は結婚を承諾するまで名前を明かさないものだったことなど、当時の婚姻に関する習慣についてお話されました。そして、あわせて『つま(妻、刺身のつま、つまやなど)』『ち-ち(血液、母乳など)』という現代語として私たちに馴染み深い言葉の語源について触れながら、お話してくださいました。
万葉集という歌集の特徴としては、歌は声に出して読むものとして作られたもので、言葉の技巧を追及する後世の歌集とは違いがあることや、声に出すがゆえに歌自体も相手に問いかけるように作られていることを説明されました。また、当時の風習として歌の中で相手を誉めるのが礼儀だったことや、男性の求婚の歌には女性は一度断るのが一種のルールであったことなどを紹介していただきました。
後半では、春に平城京周辺で若菜を摘んで、煮て食べる「若菜摘み」という行事について触れられました。平城京の役人たちは都の南(春日野)で行われた若菜摘みを大変楽しみにしており、時には宿泊も伴う宴会であり、ピクニックであったそうです。また、この行事には、春のみずみずしい生命力を取り入れ、その場を訪れる天皇が乙女に求婚し、春の花嫁が誕生することで、その年の秋の豊作を願う「予祝儀礼」という意味を持っていたことを説明されました。そして、万葉集の歌から、現代のお水取りの行事まで続く奈良の地で行われてきた春を祝う歴史についてお話いただきました。
先生は帰り際、和歌の朗読について尋ねられた方に、「あおによし 奈良の都は咲く花の 匂うがごとく今盛りなり」の歌を例に「歌の中の言葉が、次のどの言葉を修飾しているのか意識して読むことで、情景が浮かぶようにするとよいでしょう」とアドバイスされました。
先生は、終了後の握手も気さくに応じられ、終始和やかな講義となりました。
この講座の様子は、奈良テレビ放送の「いきいきタウン」3月6日(土)午後10時~午後10時15分の
ひとコマにも取り上げられました。
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